皇学館大学にて



11月27日(木)の宗教学講義(3限目)と宗教学概論b(4限目)にてお話をさせていただきました。

ご意見やご質問等をいただきましたので、その中からいくつかお答えしたいと思います。


宗教学講義Ⅱ

Q、 鳥葬は我々の価値観で考えると恐ろしい内容だ。生きた証が何も残らないというのはとても怖い。「輪廻を解脱し、涅槃へと行く」本来の仏教のあり方を考える と、寧ろ間違っているのは我々の方なのはわかっている。だが怖い。しかし、宗教から来るこのような価値観の違い、比較は面白い。大黒さんの話も面白かっ た。


A、正直ですね。確かに日本仏教には鳥葬の習慣はありませんので私も驚きました。でも輪廻する限り、今の生が前世の生きた証になるのかもしれません。


Q、ヒマラヤに登る冒険家たちがカラフルな旗を山頂に置いてゆく映像や写真を見たことがあります。あれもタルチョーでしょうか?


A、 登山家が登頂に成功すると自国の国旗などを雪に刺している写真を見たことがありますが、仏教徒でヒマラヤに上る場合、タルチョーを掛けることもあるかもし れません。実際雪山に登った時、至る所でタルチョーを見かけましたが、もともとそこに住んでいる山岳民族や、巡礼で訪れたチベット仏教徒によるものも多く 含まれていると思います。


Q、ヨーロッパや西アジア方面では宗教に関する紛争があるが、そういう内戦的なものはあったのか?


A、文革前のチベットでという意味でしたら、何度か他国に攻められています。内戦ではありませんが。例えばダライ•ラマ13世(現在は14世)は2度ほど亡命していますが、1度目はイギリスに攻められてモンゴルへ、2度目は中国に攻められてインドへ亡命しています。


Q、チベット人にとって宗教とはどのようなものでしょうか。


A、少なくとも文革以降は、自分たちがチベット人であるという証であったり、生きていく上での大きな心の拠り所になっているのではないでしょうか。


Q、チベットでは火葬でしかも燃やされるのが木の上で普通に見られると言っていましたが、問題はないのですか?


A、火葬を見たのはインドのガンジス川のほとりでですが、インドなどの東南アジアでは日本に比べはるかに生と死を身近に感じる機会が多いと思います。


Q、チベット仏画に少し興味がわきましたので、著名な画家のお名前を教えていただきたいです。


A、ありがとうございます。実は一人で描き続けるチベット仏画絵師は少数派です。だいたいどこも工房のような形をとって制作に取り組んでいます。もし機会がありましたら、ぜひ壁画めぐりをされることをお勧めします。チームを組んで、壁一面に描かれた壁画は圧倒されます。


Q、静岡茶を作る茶畑はなかなか山の方にあったりします。気候的には涼しい方がよいかもしれません。あとは風量を見るものもあったりします。


A、なるほど風量も大事なんですね。少し調べましたら、ダージリンで発生する霧がこの紅茶独特の香りを生んでいるそうです。(確かに、ダージリンの霧はすごかったです…)


Q、タルチョーは日本でも売っているのですか?


A、ネットでも買えるみたいです。


Q、葬式の際、日本でいう精進落としのようなものはあるのでしょうか。


A、たしかチベット仏教では初七日と21日、49日にも法要を行うと思います。高地のため野菜があまり採れず、肉中心の食生活ですので、肉類を断つことは本来のチベット本土では難しいのではないかと思います。


Q、熊野展(三重総合博物館)に行かれましたか?


A、行きたいと思いながら予定が合わず行けませんでした。次回は春休み中にお願いしたいです。


宗教学概論b

Q、仏画といったものの特徴や、絵の形といったものが定まっていないのだとしたら驚きですし、興味がわきました。


A、チベット仏画は、身体比率、色、印相、持物等は経典で定められています。背景は、画流により異なります。日本の仏画は詳しくありませんが、身体比率は定められていないのではないかと思います。


Q、中村さんは大学生時代、どんなことを大切に生活しておられましたか?


A、自分は何も知らないと感じていました。知るために、いろいろなことに挑戦し、失敗し、傷つき、落ち込み、また立ち直り挑戦する、を繰り返していました。


Q、(円形)マンダラ図の端はくっつけられるのですか?


A、マンダラは仏様の住処ですので立体の建物を想像して下さい。私たち仏画師は、その建物を平面上に描きますので、真上から描く場合は見開き図になります(屋根の裏側は描きませんが)。


Q、3の倍数はより功徳が積めるというお話がありましたが、ボダナートの高さが36メートルなのはただの偶然なのでしょうか。だとしたら面白いです。


A、そういえばそうですね。偶然ではないかもしれません。また調べてみたいと思います。


Q、インドネシアに行った時、同じような模様をみたことがありましたが、これは宗教(ヒンドゥー教)が同じだからなにか少し気になりました。


A、 インドネシアではヒンドゥー教は少数派でイスラム教が多数を占めるようです。インドでイスラム教は少数派ですが存在します。両者は少し似ているところもあ るかもしれません。同じ仏教でも違いがあります。例えばタイの仏教建造物とチベット仏教建造物も雰囲気はかなり異なります。共通点があるとしたら、カラフ ルであることと細かいことでしょうか。日本ではあまり見かけないスタイルかもしれません。


Q、私は身代不動尊の御守りを身につけているので、先生が不動明王を描かれた作品があれば鑑賞してみたいです。


A、不動明王も描いたことがあります。よろしければホームページをご覧下さい。

(http://buddhism-patch.com)


Q、仏画師一人一人の個性や表現などはあるのでしょうか。


A、経典の中で決められていることは変更出来ません。それ以外の部分でしたら、自分の型を少しづつ崩していく人はいます。


Q、 ブータンの歴史や文化についてまったく分からなかったが、国技がアーチェリーと初めて聞きました。オリンピックなど世界大会で上位をとっているイメージが ないのですがどうなんでしょう。日本では柔道が国技で世界で上位にいて力を入れているように感じますが、ブータンはアーチェリーには力を入れてないので しょうか?


A、 面白い質問でした。今後はどうかわかりませんが、現在のところ、世界大会で上位入賞するために力を入れている(結果も出ている)競技はブータンにはないか もしれません。ブータンに行った時、広場でアーチェリーを楽しんでいる人を何度か見かけましたが、サッカーをしているブータン人はそれ以上によく見かけま した(特にネパールで)。将来、もしかしたらサッカーが強くなるかもしれません。


Q、 井戸水を汲み上げるのに穴のあいたバケツを使って何度も汲み上げたと聞いて驚きました。バケツを横に倒して水を入れることは不可能だったのでしょうか。バ ケツが日本のバケツのイメージで考えているので、ネパールのバケツはまた日本のとは違うのでしょうか?気になります。


A、 今考えると、取ってのところに錘をつけたら上手くしずむのでは?と思います。あとは元々重たいバケツでも沈んだと思います。ただ乾期で水不足でしたので、 水位がどんどん下がっていき、バケツに結びつけた紐を継ぎ足していく必要がありましたので、重いと疲れるかもしれませんね。何かアイデアがあれば教えてく ださい。


Q、輪廻しなくてよくなるというのは、どういうことなのでしょう。さとりを得て輪廻しなくなった後、死ぬと人はどうなるのでしょう。


A、さとりは煩悩が無くなった状態であるといわれています。さとりを得た人は涅槃に入ります。これは煩悩によって苦しむ必要がなくなった状態ですので、仏教では喜ぶべきことと考えます。

分 かりにくければ、輪廻を1人の人間の一生にあてはめて考えてみてはどうでしょう。実際には死んではいませんが、人は生きながらに六道を味わっているような ものなのではないでしょうか。例えば 欲しいものが手に入らず苦しい思いをしていても、(手に入ったからにしろ、必要ないものであることに気付いたからにしろ)その欲が消えた時、同じ現実でも 世界が違って見えた経験はありませんか。まさに地獄から天界への移動を味わっているようなものです。そしてまた些細なことで怒ったりすると天界から修羅道 におちたりするのです。その堕ちたり上がったりをもう繰り返さなくてよくなる、これが涅槃です。


Q、原則仏教徒でないと仏画は描けないとのことでしたが、例外として仏教徒以外の人でも仏画を描く人はいるのですか?


A、 私が学んでいた寺院では仏教徒になってから本格的な入学が許されるルールでしたが、外の工房などにはたくさんいると思います(体験入学でしたら仏教徒であ る必要はありません)。個人的には、例えば他宗教の人が写仏などをして心が癒されたり楽しめたりするのであれば描いたらいいと思っています。ただ儀礼や法 要の為に描く仏画は正しく描かれている必要がありますので、儀礼等をよく理解している仏教徒が描く方がいいのではないかと思います。


Q、チベット仏教の地でのタブーや食に関する規制などはどのようなものがありましたか?


A、 ネパールのチベット仏教文化圏ではということですが、海がなく魚介類を食べる習慣はあまりないようでした。小エビを見せたら虫を食べるのかと驚かれまし た。豚は不浄だから食べないという人もいましたが、中華料理店を営んでいるのはたいていチベット人でしたので、そこでは豚はふんだんに使われていました し、ヒンドゥー教徒が牛を食べないので牛肉はほとんど手に入りませんでしたが、水牛は食べるなど様々な文化が混ざり合っていました。

タブーはその人の置かれた立場によって微妙に違ってくると思います。ネパールは多民族国家のため、食に限らずそれぞれの文化に様々な違いがあり、タブーもいろいろあったと思いますが、ネパールは比較的、違う文化を受け入れ合う姿勢が出来ていたのではないかと思います。


Q、現地で何年ぐらいお過ごしですか。


A、7年です。


Q、制作するのにどれくらいの期間がかかりますか。また皇學館大学へ来て講義よろしくお願いします。


A、例えば仏様を一尊描く場合でしたら、風景にもよりますがだいたい1ヶ月前後です。

呼んでいただけるならいつでも伺います。こちらこそ、よろしくお願いします。


Q、人間として生まれ代わる以外、六道を抜け出すことは出来ないという話に、また天界が最終地点ではないのだなあと思い、またなんで人間に生まれる以外抜け出せないのだろうと疑問に思いました。


A、三悪趣+修羅道に生まれると修行どころではないし、天界では快適すぎて、修行をしてさとりを得ようという気にならないからだそうです。


Q、 ネパールの宗教は複雑(ヒンドゥー教、チベット仏教)なイメージを私は持っているんですが、中村さんは複雑だなと実際行ってみて思ったことはありますか? ネパールの宗教事情を調べると、ネパールの生神様の存在があると知ったんですが、中村さんは見たこと、聞いたことはありますか?


A、ネパールには複数の宗教が混在していますが、中近東などのイスラム教国に比べると穏やかなほうだと個人的には思います(全く争いがないわけではありませんが)。生き神クマリについては詳しくはありませんが聞いたことはあります。一度だけ見たこともあります。


Q、仏画の製作には粉本などもあると思うが、そのようなものを利用しつつ、どう「現代の仏画」を形作ろうとしているのか?


A、「現代の仏画」なるほど、目指してみます。どのようにかはわかりませんが、誰も興味を持たないものは描いても自己満足に終わると思います。あと、仏教徒であるなしに関係なく、見た人を感動さられる絵を目指したいです。


Q、マンダラは仏教画ということで、仏教徒でないと原則描けないとのことでしたが、マンダラを描いていくにつれて仏教に対する考え方やイメージが描く前に比べて変化したりするものなのでしょうか?


A、マンダラについては儀礼と深く結びついているので、やはり仏様のいらっしゃるお浄土だと感じました。その他の左右対称の細密画でマンダラに似ている絵は、浄土ではなくアートであると感じます。しかし不思議ですが、どちらも心を癒す力があるような気がしましたが。


たくさんの質問していただきありがとうございました。幾つかお答え出来なかったものもありごめんなさい。御柱祭についてはこれから調べてみたいと思います。

次回お会い出来るのを楽しみにしています。